ケーススタディ
売買判断のケーススタディ1|バイオ株は夢と現実の見極めが重要
バイオ株は個人投資家に人気がある分野の一つ。新たな医薬品の誕生は世の中を大きく変える可能性を秘めているため、思惑が広がり、株価が急騰することもあります。ただし、医薬品は市場に出るまでの規制や認可の仕組みなどが複雑です。一般企業の場合は、ヒット商品の誕生と株価上昇が素直に結びつくケースが多いのですが、バイオ関連の企業は少し違った視点で売買を判断する必要があります。
そのポイントを見る例として、小野薬品工業(4528)の売買を取り上げてみましょう。
小野薬品工業を買い推奨した理由
小野薬品工業を買い推奨したのは2016年の3月と4月です。この年は、のちのブレグジットにつながる英国国民投票や、米国の大統領選が控えていたため、年初から大口が買い控える傾向があり、個人投資家主体でバイオ株や中小型株がよく動いていました。
その中で小野薬品工業を推奨したのは「オプジーボ」に注目したためです。オプジーボは、皮膚がんのメラノーマの保険適用薬として認可された薬で、2015年12月には肺がん治療での使用も認可されました。従来のがん治療は、がん細胞を手術で切除したり、抗がん剤でがん細胞を殺したりしていました。ただ、がんの進行度合いによっては手術が難しいこともあり、抗がん剤には強い副作用を伴うことがあります。
一方、オプジーボは治療のアプローチが異なり、人がもともともつ免疫システムを回復させることによってがんを治療します。科学的にも効果が認められ、その他のがん治療にも使えるのではないかと期待されていました。適用となるがんが増えるということは、患者数が増え、需要が大きくなるということです。そのような展開を見据えて、小野薬品工業の株価も上昇基調でした。
売り推奨した理由
オプジーボは画期的な商品です。しかし、普及に向けて大きな問題がありました。それは価格です。つまり高価だったのです。
当初の価格で計算すると、患者さん1人あたりにかかる治療費は数千万円になります。保険適用のため個人負担は一定額に収まりますが、その分を国が負担すると財政を圧迫します。そこで、薬の価格を下げる薬価改定の話が出てくるのです。
通常、価格を下げると需要が増えるため、売り上げそのものに与える影響は小さく収まります。ただ、薬の需給バランスは一般の商品と異なります。オプジーボの場合、薬を必要とする患者さんはすでにたくさんいましたし、がん患者さんの数は限られていますので、価格を下げてもさらなる需要増は見込めなかったのです。その他の要因としては、仮に十分な需要があっても、製造・生産能力の限界があるだろうと考えました。また、米国などと比べて日本の薬価は高く、その基準で当初の売上額などを予想していました。
このような事情から、オプジーボはおそらく値下げすることになり、小野薬品工業の売上減少に直結するだろうと想定できました。そのため、当社としても6月に売り推奨することになったのです。
売却後の展開
小野薬品工業の買い推奨は、3月が4374円、4月が4694円でした。その後、株価は上昇し、一時5000円を超えました。
売り推奨した価格はピークから下がってきた4688円でしたので、あまり大きな利益は得られませんでした。ただ、株価はその後も下落し、2018年1月現在は2700円前後となっています。結果として、薬価改定の話が出たタイミングで売却し、乗り換えることが適切な判断だったといえるでしょう。
売買判断のポイント
小野薬品が値上がりしたことを受けて、バイオセクター内では「似たような画期的な薬が生まれるかもしれない」という期待が高まり、他の銘柄も連れ高しました。その中には、まだ新薬を開発途中の銘柄や、赤字の創薬ベンチャー企業などもありました。
新薬の開発は夢がある話ですから、飛びつきたくなる個人投資家も多いことでしょう。しかし、夢だけではなく現実も見なければなりません。オプジーボは、すでに製造・販売の承認を受け、上市していました。また、米国の大手薬品会社であるブリストルマイヤーズスクイブと提携し、ライセンス収入もあります。経営の足元が固まっているという点で、これから新薬を開発するかもしれない企業とは違っていたのです。
バイオ株のように思惑が膨らみやすい銘柄は、期待と実態(夢と現実)の差を見ることが大切。期待で株価が上がっても、実態がついてこなければ株価は戻ります。実際、連れ高した銘柄の中には、当時の10分の1くらいまで株価が下がったものもあります。夢を持つことは良いのですが、足元の業績を踏まえ、引くべきタイミングで次の銘柄に乗り換えることが重要なのです。
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